目を覚ますと、隣にはまだ珍しく眠るケントの顔。
そういや、こいつのこんな顔って初めて見たのかも……
もう少し、見ていようかな。
――なんて考えて、にやにやしていたら、その嫌な気配でも感じ取ったのか、ケントが目を覚ました。
あまりに近い距離であった為に、セインは見事にケントのパンチを面食らう羽目に合ってしまったのだった。
<……いい加減にしてくれ>
「……い、痛いよケントさん…」
「セイン、貴様……起きていたなら起こしてくれても―――」
「いいじゃん、お前だって疲れてたんだろうしさ」
「う………」
ケントは、明らかに否定が出来ない様子。
当たり前だろう。
着替えも忘れて、あっという間に寝ていたんだから。
「それにさ」
「?」
「お前が寝てる顔、可愛かったし」
「!?? セイン、頭でも打ったのか!?」
「え? いや、全然……」
ケントは訳が分からん、といった顔を見せる。
それさえも可愛くて、思わずケントを抱き締めてやった。
「……セイン、やはり貴様、頭が――」
「だから、大丈夫だって! ケント……無理だけは、しないでよ…?」
「………そんな事、解かっている」
セインはぎゅっ、と抱き締める腕の力をより一層、強める。
「セイン……い、痛い……」
「あれ? ああ、ごめん!」
セインはばっと腕を離す。
気が付けば、ケントの顔は真っ赤になっていて。
その顔も、初めて見たなぁ、と思わずにんまりしてしまった。
「じゃあ、支度しちゃおうか」
その言葉に、ケントは黙ってこくんと頷いた。
……やっぱり可愛いなぁ、ケントは。
お前を見ていると、本当に抱き締めてやりたくなる。
お前がいろんな表情を見せる度に、嬉しくて嬉しくて。
怒っている顔さえ、愛おしく感じられる。
宿屋の主人に俺は隙を見て、話し掛けていた。
「……でさぁ、あいつが………」
「お前さんともう一人の騎士様は、仲がよろしいようで」
「ははっ、そうでしょー?」
セインの言葉につられて、主人も笑う。
「……セイン、何をしている、行く支度は出来たのか」
「うん、ばっちり!」
セインはケントに向かって微笑む。
そうしていると――
「あら、もう出発なさるの?」
「エレイン、お前も来たのか」
主人が振り返ると、そこには綺麗な若い娘が一人、立っていた。
「……おお」
「………セイン」
「二人共、騎士様なのですよね? 私はこの主人の娘、エレインです」
そう言って、丁寧にお辞儀をしてくれた。
「はぁ………」
「エレインさんでしたか、主人が昨日、綺麗で自慢の娘さんだとおっしゃっていたが……確かに、美しい!」
「ふふ、有難うございます」
エレインはいつものセインの態度に、くすくすと笑う。
ケントも、笑顔が綺麗なお嬢さんだと思った。
「……出来れば、もう少しゆっくりとお話したかったですが…今日の所は、失礼させて頂きます」
「有難う、また是非寄って行ってくれよ」
「はい、お世話に…なりました」
「また会えるといいですわね」
「はい、勿論」
そう言って、ケントとセインはその場を出た。
「……珍しいな、お前があれ程の美人の前でそっけない態度をとるなんて」
「そう―? 俺だって、本命くらいいるんだよ」
「……意外な話だな」
ケントは、本当に以外そうに、此方を見る。
…………きっと、それが“お前”だって事は、気付いていないのだろうけど。
「さぁ、行こっかケント」
「あ、ああ……」
セインはケントの手を引っ張って、勢いよく馬を走らせた。
その頃、セイン達が出発した宿屋。
「……では、先程出て行った騎士達がキアランの使いだと言うのだな?」
「…はい、しっかりとこの耳で聞きました、間違いないかと……」
「………ご協力、感謝する」
そう言って、一人の男が主人に謝礼を渡す。
「………お気を付けて、御贔屓を」
「…考えておこう」
「………」
そして、男達はそのままその場を出て行った。
「……エレイン」
「やっぱり、いけないわ……あの人達、何か危険そうな雰囲気だったもの」
「しかし…」
「私、あの二人に…教えてくる!」
「! お、おい待ちなさいエレイン!」
エレインは父親の言葉もよそに、宿屋を飛び出して行った。
「……セインさん、ケントさん…どうか、無事で…」
「……今日は三分の一くらいまでは、行けるといいねぇ…」
「行かなければ、この先もかなり道のりは厳しいだろう」
「……そうだなぁ」
「気を抜くな馬鹿者。……我々は、陰で暗躍する者達に狙われる立場にあるかもしれんのだぞ」
「大丈夫、俺とお前が居るんだからさ……」
「そういう油断が危険を招くのだ、全く―――」
「……地図を見てもさぁ、ここらへん…町が無いんだよなぁ」
セインは大きな地図を広げて、疲れた声で呟く。
「…仕方あるまい、サカに近付けば近付く程、少なくなっていくだろう」
「まぁ、ね」
セインはふぅ、と溜息をつく。
…あとどのくらい、お前とこの距離を保っていかなくちゃならないのだろう。
あと、どれだけお前はへの想いを抑えていかなくちゃならないのだろう。
早く、早くと、追い風が舞って、俺達を風に浚ってゆく。
いつしか、小鳥達の囀る声も木も得なくなり。
薄暗い雑木林の道は、まるで俺達を静かに誘っている様だった。
つづく
セイケンて本当にほのぼのが似合うと思う。
セインがゆっくり、ケントを前に進ませてあげればいいと思うよvv
そう、ゆっくり……ゆっくりとね。
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